2024年の年明け、能登半島を襲った大きな地震は、多くの人の暮らしを全くちがうものに変えました。そんな中でも「地域の日常を取り戻したい」という思いで、歩み続けた人がいます。志賀町で約70年にわたり営業を続けるスーパー「トギストア」。専務の冨澤美紀子さんに、被災当時のこと、再開への道のり、そしてこれからのお店づくりについて伺いました。 -まず、トギストアの成り立ちについて教えてください。冨澤さん: 創業は主人の父が始めたもので、現在の社長は主人です。会社としてはおよそ70年になります。株式会社にしてからは60年弱ですね。「地域密着型スーパー」として、近くの漁港から仕入れた新鮮なお刺身や、手作りの総菜などを販売してきました。 -「地域密着型スーパー」ということですが、大切にしていることはありますか?冨澤さん: やはり地元の方々とのコミュニケーションですね。例えば、今はマイバッグを持って来られる方も多いですが、それでもなるべく袋詰めをお手伝いしています。その間に会話が生まれるでしょう?そういうちょっとした心遣いを大切にしています。 -地震が起きた時のことを教えてください。冨澤さん:その日は1月1日、元日でした。家族とお墓参りに行っていて、車に乗った途端に1回目の揺れが来ました。主人を家に残していたので「帰ろう」と急いで戻る途中で2回目の揺れが来て、ちょうど橋を渡ろうとしたときに、目の前の橋が大きく波打つように揺れました。怖くなって引き返すと今度は崖から大きな岩が転がってきて。右往左往しながらもなんとか家にたどり着いたのですが、津波警報が鳴ってしまって、自宅には一度も入れず高台に上がりました。主人とは避難した先で合流することが出来ました。話を聞くと、息子が「お父さんを助けに行かなくちゃ」と主人の元に駆けつけてくれて。その時には玄関は塞がれて、何もかもが倒れてきて扉もあかないので何人かでこじ開けてようやく外に出られたそうです。その後、避難所での生活が始まりました。-避難所ではどのように過ごされていたのでしょうか。冨澤さん:避難所で9月までお世話になりました。最初の夜は余震が酷く、一睡もできませんでした。うちは自宅兼店舗だったので、夜が明けてから娘たちが自宅とお店を見に行って来たら?と言ってくれたんです。でも私はもう怖くて行けない。 体が動かなかったんですね。「お母さん行けないから見てきて」と頼むと、娘たちが行ってくれて。帰ってきて聞いた言葉は「お母さん、もうダメ。家には住めない」 全身力が抜けて頭が真っ白になりました。 どうしようどうしようと思いながらいたのですが、3日が経って、「こんなことしていられない」と、意を決してお店を見に行ったんです。店内はビン物が全部ひっくり返ってお醤油なんかは割れて、すごい匂いでしたし、壁も天井も落ちて剥がれて、本当にひどい状態でした。当然、2階の住まいの方も上がっていけないほど。 それから少しずつ 片付けを始めたんですが初めは何から手をつけていいかわからない状態でしたね。正直なところ一人では絶対無理なので従業員の方に来てもらったりして少しずつね。 -営業を再開した経緯を教えてください。冨澤さん:避難所でたくさんのお客様に「新鮮なお刺身が早く食べたい」「いつから再開するの」と声をかけていただいたのです。これだけみなさん待ってくれてるんだからと、家族と話し合って、営業を再開することに決めました。ただ、被災した店舗はひどい状態でした。鮮魚部と惣菜部はお水がないと商売ができないのですが、なにしろお水が出ない。そこでまず水道屋さんに助けていただいてやっと少しお水が出るという状況にしてもらいました。まずは、被災した店舗の一部を使って応急的に再開しました。-再開初日の様子を教えてください。冨澤さん:まずお店を開けたらすぐに「待ってたよ」と入ってきてくださったお客様がいて、グッと胸が熱くなりました。「今日は何がある?」と聞かれて、お刺身を買っていってくださる姿を見て、本当にありがたくて嬉しかったです。-その後、現在の仮設店舗に移られたそうですね。冨澤さん:被災した店舗では本格的に営業を再開できないので、一旦、仮設店舗に移って、被災した店舗を解体して、建て直すことにしました。仮設店舗での営業は、9月から開始しました。仮設店舗は元の店舗から離れているのですが、毎日来てくださる方も多いです。建設中の仮設店舗(2024年7月)営業中の仮設店舗(2025年10月)-新商品「能登復興丼」「能登復興寿司」にはどんな思いを込めましたか。冨澤さん:とにかく前を向くこと。復興への願いを込めて作りました。いろんな場所で販売のお声掛けをいただいて、京都や神奈川にも送ることができました。本当にありがたいです。お寿司やお刺身が所狭しと並んだ店内-避難所での生活から、店舗の再建に向けて歩み続けていますが、原動力はどこにありますか。冨澤さん:お客様の声ですね。「おいしかったよ」とわざわざ言いに来てくれる方がいるんです。その言葉が何より嬉しくて、また頑張ろうって思える。それが私の力の源です。これまで本当に多くの方々に助けていただきました。問屋さんがお水を届けてくれたり、ボランティアの方が声をかけてくれたり。再建に向けてクラウドファンディングも実施したのですが、支援してくださった皆さんがお優しくて、リターンを辞退される方も多いのです。「小さい頃からトギストアのお刺身を食べていた」「なんとか頑張ってね」「再建してね」と言ってくださる方もたくさんいて、涙が出るほど嬉しかったです。-建て直す新しいお店は、どのようなお店にしたいですか。 冨澤さん:能登はただでさえ過疎化が進んでいて、震災でも人口が減ってきている中、お年寄りの一人住まいが本当に多いのですね。孤独感を味わっていて、寂しい思いをしている方がたくさんいらして。 そういう人たちを見ながら、何とか私たちにできることないかねって考えていたのです。そこで、新しいお店には、地域の方が集まれる「コミュニケーションスペース」を作ろうと考えています。お茶を飲みながらお話ししたり、ミニコンサートや紙芝居をしたり。お店が「人と人をつなぐ“癒しの場所”」になればと思っています。-最後に能登のみなさん、そして全国のみなさんへ向けたメッセージをお願いします。冨澤さん:私は周りの皆さんからの応援というか支えがあってこそ、前向きになれただけなのです。 本当に皆さんがそばにいたからこそ。能登にいるみんな一生懸命に頑張っています。だから、ぜひ能登に来てほしいです。「まだ能登には行っちゃだめなんだよね?」と聞かれることもありますが、全然そんなことはないので、遊びに来てください。夕日も海も本当に綺麗なんですよ。来てくれたら、きっと元気をもらえると思います。志賀町の夕景志賀町の海